信用創造から見る準備預金・中央銀行・金融政策
前編のおさらいと、この記事のねらい
この記事は、信用創造をめぐる前後編の後編です。前編をまだ読んでいない方は、先に前編から読むことをおすすめします。
前編の要点を一段だけ振り返ります。銀行は、預金を集めてから貸しているのではありません。逆に、貸した瞬間に新しい預金が生まれます。これが信用創造です。ただし、銀行は無制限にお金を作れるわけではなく、信用リスクや自己資本、収益性、そして決済の制約の中で、貸せる範囲が決まっていました。
前編の終わりに、「貸して生まれた預金は他の銀行へ振り込まれ、その決済のために準備を用意するコストがかかる」と軽く触れました。後編は、その「準備」から始めます。準備預金・日銀当座預金とは何なのか。貸出と準備はどちらが先なのか。そして、量的緩和や金融政策は信用創造の視点からどう見えるのか。順番に見ていきます。
日銀当座預金・準備預金は何のためにあるのか
前編で、銀行が貸すだけで預金を作れることを見ました。すると、新しい疑問が出てきます。
「銀行が貸すだけで預金を作れるなら、よく聞く『準備預金』や『日銀当座預金』は何のためにあるのか。あれは貸すための元手ではないのか」。
これは大事な論点なので、丁寧に分けます。
まず言葉を整理します。日銀当座預金とは、民間銀行が日本銀行に持っている預金です。準備預金は、そのうち制度上一定額を置いておくよう求められている部分を指します。どちらも、家計や企業が日常で使うお金ではありません。銀行どうしの世界で使われる、いわば「銀行のための銀行口座」のお金です。
では、これは何に使うのか。主に、銀行どうしの決済に使われます。加えて、後で述べる準備預金制度への対応にも使われます。
具体例で見ます。あなたがA銀行の口座から、B銀行に口座を持つ相手に振り込んだとします。あなたの画面では、A銀行の残高が減り、相手のB銀行の残高が増えます。しかし、それで話は終わりません。A銀行とB銀行の間でも、お金の受け渡しを清算する必要があります。
身近なたとえで考えてみます。友人どうしで、一日のあいだに何度も互いに立て替えをした場面を思い浮かべてください。その都度すぐ現金をやり取りするのではなく、一日の終わりに「差し引きでいくら」とまとめて精算したほうが楽です。銀行どうしの決済も、これと似ています。一日のあいだに無数の振込が両方向に行き交い、最後に銀行間で差額だけを清算します。
この銀行どうしの清算に使われるのが、日銀当座預金です。A銀行からB銀行へ、日本銀行の帳簿の上で当座預金を動かして、最終的な決済をします。いわば、銀行どうしが差額を精算するための「共通の財布」が、日本銀行に置かれているわけです。
ここで順番が大事です。
素朴なイメージでは、「銀行はまず準備(日銀当座預金)を用意し、その範囲で貸す」という順序を思い浮かべがちです。しかし実際は、銀行はまず貸出を実行して預金を作り、その預金が他行へ振り込まれるなどして決済が必要になったときに、準備を用意します。準備は「貸すための事前の元手」ではなく、「貸した後の決済のための手段」なのです。
そして、銀行システム全体として準備が足りなくなれば、最終的には日本銀行が供給します。日本銀行は、銀行どうしの決済が詰まって金利が乱れることを避けるため、必要な準備を供給する立場にあります。準備は貸出を縛る天井ではなく、決済を回すために後から追いついてくるもの、という像になります。
ただし、準備がまったく無関係なわけではありません。日本には準備預金制度があり、銀行は受け入れた預金の一定割合を、日銀当座預金として一定期間内に積む義務があります。ここで大事なのは順番です。これは「貸す前に準備を用意せよ」という事前条件ではなく、預金を受け入れた後に、その一定割合を後から積むという事後的な義務です。
ここで、前編の区別を思い出してください。預金には、(a) もともとあるお金が口座に移ってきたもの(現金の預け入れや給料の振り込み)と、(b) 銀行が貸出で新しく作り出したもの(信用創造)の、二つの生まれ方がありました。準備預金制度の積立義務は、この (a)(b) を区別しません。生まれ方がどちらであっても、銀行が抱えている預金残高の全体にかかります。つまり準備は、貸出を縛る事前の元手ではありませんが、制度上の積立義務という形では関わってくるのです。
「準備預金は必要ないのか」と言われれば、そうではありません。必要です。ただし、その役割が、多くの人がイメージする「貸すための財布」ではなく、銀行間決済の手段であり、制度上の事後的な積立義務だ、ということです。
中央銀行や日銀当座預金そのものの役割については、別記事「中央銀行は何をしているのか(rkss-0007)」でより詳しく扱っています。
「準備が先か、貸出が先か」:主流派モデルとの対比
ここで、教科書でよく見る説明との違いに触れておきます。少し理論的な話ですが、順序の違いとして見れば難しくありません。
経済学の教科書には、「貨幣乗数モデル」と呼ばれる説明が出てくることがあります。おおまかに言うと、こうです。中央銀行がまず準備(日銀当座預金にあたるもの)を増やす。すると銀行は、その準備を元手に、一定の比率で貸出と預金を増やせる。だから、中央銀行が準備を増やせば、世の中のお金もそれに比例して増える、という説明です。
このモデルでは、順番は「準備が先、貸出が後」です。準備の量が、貸出の量を決める天井になっています。
一方、前編で見てきた像は、順番が逆でした。
まず、お金を借りたい人がいて、銀行が「この相手なら返せる」「採算が合う」と判断して貸す。その時点で預金が生まれる。準備は、その後の決済のために、必要に応じて用意される。つまり「貸出が先、準備が後」です。何が貸出を決めているかと言えば、準備の量ではなく、借り手の需要と、銀行の信用判断や採算、そして金利の水準です。
この二つは、同じ銀行システムのどこに注目するかが違う、とも言えます。貨幣乗数モデルは、中央銀行が供給する準備の量と、世の中のお金の量とのつながりに注目します。内生的貨幣論は、現場で貸出が実行され預金が生まれる順番に注目します。中央銀行が準備や金利の条件を動かすこと自体が無意味だ、と言いたいわけではありません。準備や金利の条件は、貸出の採算や金融市場の地合いに影響しうるからです。
そのうえで、筆者の立場をはっきりさせておきます。完全に断定するつもりはありませんが、現実の銀行の動きをよりよく説明できるのは、後者の内生的な見方(貸出が先、準備は後追い)だと考えています。
理由は、現実の貸出が決まる仕方にあります。現場の融資は、中央銀行が積んだ準備の量から機械的に割り出されるわけではありません。まず、お金を借りたい人や企業の資金需要があります。そして銀行は、その相手が返せるか、採算が合うかを、先のことが分からない不確実さの中で判断し、リスクを取って貸します。貸出を実際に動かしているのは、この実需と信用判断です。準備の量を起点に貸出が自動的に決まる、という像よりも、実需と判断を起点に見るほうが、現場の融資の実態に近いと考えます。
言いかえれば、お金が生まれる引き金は、準備の量ではなく、実体経済の側にある資金需要(実需)です。ここが本質的だと筆者は見ています。ただし、これは主流派の見方を全部否定する話ではありません。金利や準備の条件が、貸す側の採算や市場の地合いに影響することは確かです。あくまで「どちらが現場をよりうまく説明するか」を言っているのであって、片方が完全な誤りだということではありません。
この順序の置き方の違いは、次の節で量的緩和を題材に、もう少し具体的に見ます。
なお、貸出が預金を生むという見方は、中央銀行自身も説明しています。イギリスの中央銀行であるイングランド銀行は、現代の経済では銀行貸出によって預金が作られると、明確に解説しています※1。これは、特殊な立場の人だけが唱えている話ではありません。
信用創造から見ると、金融政策はどう見えるか
信用創造の視点を持つと、ニュースで聞く金融政策がどう見えるかを、少しだけ整理します。深入りはしません。
量的緩和という言葉を聞いたことがあると思います。中央銀行が国債などを大量に買い、その代金として銀行に準備(日銀当座預金)を大量に供給する政策です。
貨幣乗数モデルの発想に立つと、こうなります。準備を大量に増やせば、銀行はそれを元手に貸出を増やし、世の中のお金が増えて、景気や物価が押し上げられるはずだ、と。
しかし、信用創造の視点に立つと、見え方が変わります。
貸出を決めているのは準備の量だけではなく、借りたい人がいるか、銀行が貸して採算が合うと判断するか、でした。だとすれば、準備をいくら積み増しても、借り手の需要や貸し手の判断が動かなければ、貸出はそれほど増えません。実際、準備を大きく増やしても、期待されたほど貸出やお金の量が伸びない、という場面が見られてきました。
もっとも、準備を増やすこと自体に狙いがなかったわけではありません。準備を潤沢にして金利を低く抑え、金融環境をゆるめれば、貸出の採算や投資判断を後押しできる、という問題意識はあります。ただ、その経路が借り手の需要次第で詰まりうる、という点に注意がいるのです。ここで見えてくるのは、「準備を増やせば貸出が自動的に増える」と単純に考える前提の限界です。
もちろん、量的緩和に意味がないと言いたいのではありません。金利を低く抑える、金融市場を落ち着かせる、といった効果はあります。ここで言いたいのは、信用創造を理解しておくと、「お金の量を増やせば景気が動く」という単純な話には収まらない、ということが見えてくる、という点です。
中央銀行が実際に何をしているのか、金利や決済システムとどう関わっているのかは、別記事「中央銀行は何をしているのか(rkss-0007)」で詳しく扱っています。あわせて読むと、ここでの話がもう少し立体的になるはずです。
まとめ
後編では、信用創造の視点から、準備預金・中央銀行・金融政策を見てきました。
日銀当座預金や準備預金は、貸すための事前の元手ではありませんでした。主に銀行どうしの決済に使われ、準備預金制度のもとでは、預金残高に応じて事後的に積む義務という形で関わります。準備は貸出を縛る天井ではなく、決済を回すために後から追いついてくるものでした。
教科書的な貨幣乗数モデルは「準備が先、貸出が後」と見ますが、現実の銀行の動きをよりよく説明するのは「貸出が先、準備は後追い」という内生的な見方だと、筆者は考えています。お金が生まれる引き金は、準備の量ではなく、実体経済の側にある資金需要(実需)と、銀行の信用判断です。
この視点に立つと、量的緩和も見え方が変わります。準備をいくら大量に積み増しても、借りたい人と貸したい銀行がいなければ、貸出はそれほど増えません。「お金の量を増やせば景気が動く」という単純な話には収まらない、ということです。
前編の「銀行が貸すとお金が生まれる」という基本と、後編の「準備・中央銀行・金融政策」をあわせると、量的緩和、政府支出、国債、MMTといった、この先の議論がぐっと見通しやすくなります。

